“虐待冤罪” 無罪判決続く 当事者が投げ掛ける「揺さぶられ症候群」の隙間(2020・1・7 Yahoo!ニュース特集)
虐待から子どもを救おうという機運が高まるなか、“虐待冤罪(えんざい)”が起きている。強い揺さぶりで脳などを損傷する「乳幼児揺さぶられ症候群(SBS)」に関するものだ。子どもがSBSとみなされると、子どもと引き離され、刑事裁判の被告となるケースも少なくない。ただ、2018年から2019年にかけて、こうした事例で少なくとも4件の無罪判決が出た。起訴案件の有罪率が100%に近いと言われる日本で、立て続けの無罪判決は異例というほかはない。
撮影:益田美樹
◆つかまり立ちで転び、入院
秋が深くなり始めたころ、大阪府の山野由紀さん(仮名)宅を訪ねた。39歳。こぎれいに片付いたリビングで、由紀さんは2017年8月の出来事を語ってくれた。人生を暗転させた一日である。
「長男はあのとき7カ月でした。つい数日前に、つかまり立ちができるようになったところだったんです」
午後4時前だったという。
「リビングのソファの前に長男を置いて、お茶を飲もうとキッチンに行ったんです。ほんの2、3メートルしか離れていません。キッチンから見ると、長男はちょうど、ソファにつかまり立ちをしていました」
ズバリそのソファです、とテレビの前を指さした。
今と種類は違うが、当時も衝撃を和らげるマットを敷いていたという。
「『もう、転ぶからやめてー』と急いで戻ろうとしたら、転んで。後ろ向きに。駆け寄って、抱っこしてトントンとあやしてたら、おっきな声で泣いたんです。素人判断ですが、『ああ、泣いた。よかった、よかった』と。でも、そこから一気に……」
長男は急に脱力し、重くなった。
事故の現場。今も同じ場所に同じソファがある(撮影:益田美樹)

山野由紀さん=仮名(撮影:益田美樹)
意識を失ったことに気付いた由紀さんは、長男をいったんマットの上に寝かせ、夫(46)に連絡し、掛かりつけの病院に電話した。すると、「時間外です」と自動音声が流れている。急いで救急車を呼んだ。名前を叫び続けても長男の意識は戻らない。
「もうパニックで。病院に着いて看護師さんから『お母さんしっかりして』と言われたんですが、それどころじゃなかった」
長男は頭の中で出血していた。急性硬膜下血腫。手術が必要で、別の病院へ再度搬送された。執刀医からは手術前、「出血が止まらなかったら助からない」と告げられた。夫と一緒にひたすら祈った。手術が終わったのは午後11時ごろ。出血は止まっていた。
「ほんとに、頑張ってくれてありがとう、でした」
◆病院で何を言われたか
手術の日、病院で言われたことがいくつかあった。
「普通に転んだぐらいじゃ、(あんな症状に)ならないからね」という医師の一言。児童相談所(大阪府中央子ども家庭センター)に通告するという話もあった。SBSを疑われていたのである。
SBSは、乳幼児の上半身を持って前後に激しく揺さぶることで脳などが損傷し発症する。近年では、「虐待による乳幼児頭部外傷(AHT)」とも分類される。主に「硬膜下血腫」「網膜出血」「脳浮腫」という三徴候で診断され、長男もそれに該当していたという。
長男の入院中、由紀さんは折り鶴をつくっていた(撮影:益田美樹)
由紀さんが振り返る。
「別にやましいことはないし、児相もお仕事だから調べないといけないだろうし、どうぞ、どうぞ、と。虐待の疑いなんて、すぐに晴れると思いました」
実際はそうならなかった。
一生懸命に説明しても、疑いを消せない。つかまり立ちからの転倒といった「低位落下」では、こうした症状は生じないという見方が一般的だからだ。
厚生労働省の『子ども虐待対応の手引き』(2013年8月改正版)も「90cm以下からの転落や転倒で硬膜下出血が起きることは殆(ほとん)どない」と明示している。
由紀さんは、児相から「揺さぶりませんでしたか」と繰り返し尋ねられた。「医師の鑑定に出す」とも聞かされた。その年の10月には、大阪府警が自宅を家宅捜索。夫も自分も任意で取り調べを受けた。
由紀さんは言う。
「長男の回復はゆっくり。不妊治療の末に授かった大事な子です。病院には毎日行って、少しでも長く一緒に過ごしたかったんですが、調べには全て協力しました」
その先に思わぬ展開が待っていた。
◆子どもは施設へ 本人は突然の逮捕
あの日からおよそ3カ月後の11月初旬。
由紀さんの知らぬうちに、児相が病院で長男を「一時保護」した。医師の鑑定は「事故の可能性が高い」という結果だったが、児相は「疑わしきは保護」を貫いた。長男を施設に入れるため、同意も求めてきた。
そして、翌2018年の9月27日、長男に対する傷害の容疑で、由紀さんは大阪府警に逮捕されてしまう。
「いつも通り、施設に入所している長男に面会に行く予定でした。朝、1階のエントランスからではなく、うちの部屋の玄関で直接ピンポンと鳴って、変だな、と。扉のスコープから見ると、男の人が複数立っていました。警察でした」
任意同行を求められた。
夫が「(妻は)逮捕されるということですか」と問うと、「はい」と返ってきた。
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この記事は<“虐待冤罪” 無罪判決続く 当事者が投げ掛ける「揺さぶられ症候群」の隙間>の冒頭です。2020年1月7日、Yahoo!ニュースオリジナル特集で公開されました。取材はフロントラインプレスのメンバー、益田美樹さんが担当しました。
「揺さぶられ症候群」に絡む刑事裁判では、その後も無罪が続出し、事件捜査と医学の関係や在り方が問われる事態になっています。
記事の全文は、Yahoo!ニュースオリジナル特集のサイトで読むことができます。下のリンクをクリックして、当該ページにアクセスしてください。Yahoo!へのログインが必要なこともあります。また、写真については配置などが異なっています。
“虐待冤罪” 無罪判決続く 当事者が投げ掛ける「揺さぶられ症候群」の隙間





